「福翁百話序言」 福沢諭吉

原文は文語


福翁百話は、去年三月から時事新報紙上に掲載して、既に百の数を終わり、今また便覧のため集めて一巻となした。ついては当時紙上に載せたその序言をも合わせて、これを巻首に記す。



「福翁百話序言」


開国40年来我が文明は大いに進歩したけれども、文明の本意は単に有形のものにとどまらない。国民全体の知徳も、またこれにともなって無形の間に進歩し、変化して、そうして始めて立国の根本を堅固にするを得るだろう。


 私は元来、客と喜んで交わる所、すこぶる広い。

 話し次第に往々このあたりの問題に論及した事、幾十百回であるのを知らないが、客がいなくなれば一時の雑談として、これに思いを留めないのが常であって、それは残念であると心づいた。


 去年余暇を盗んで筆を執り、かつて人に語ったその話を、記憶のままそれこれと取り集めて文につづり、ようやく積んでおよそ百題を得た。


 よってこれを「福翁百話」と名づけ、時事新報に掲載することに決し、本年3月1日より続々これを紙上に公にする。ただし、原稿の校正にも多少の時を費やすことであるので、まず1週間に2,3回づつのつもりである。


 読者もしこのこの漫筆をみて、私の微意がある所を知り、無形の知徳をもって居家処世の道を円滑にし、一身一家独立して、よく一国の基礎たるを得るに至るならば、望みの外の幸いであるのみ。


 明治29年2月15日  福沢諭吉記





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