「人の言」 幸田露伴 その2


 ・・・・・あるひと曰く。雇い人に惚れられないような主人は大きい利益を得ることができない。



・・・・・あるひと曰く。上杉景勝(うえすぎかげかつ)は百五十万石を統治してその家来であった直江兼続(なおえかねつぐ)に三十万石以上を与え、石田三成は自分の領土のなかばを客島左近(かくしまさこん)に与えた。

 天下を争うものの気象と言うべきであろう。

 上杉や石田はそのような行いがあってさえ戦いに敗れた。まして上杉石田のような気性もないやからが、人を語らって商業上の同盟を企てて、大いに勝とうとするのもそれが敗れるのは当然の理である。



・・・・・あるひと曰く。貧しい家に育って富をなすものはただ二種類の性質の人のみである。

 その一は生まれつき気が大きく、手の中に金が有るときも金が無いごとく、手の中に金が無いときも金有るがごとく、無いときも苦にせず有るときも苦にしない人である。

 もう一方の者は、生まれつきとても気が小さく、金が無いときは当然苦しんで悩み、金が有るときもまた苦しんで、自分の父母や妻子はもちろんのこと、己の身に服を着させず己の口に食べさせずとも、ただ一途に財産を蓄えようとするものである。この二種類の性質のものは、富をなして富を保つ人である。

 金が無いときは悩み苦しむが、少しの金を得ればたちまちに心が緩んで欲求をほしいままにし、または金があるときは気が大きくなるが、無いときは泣き顔するような人は、いずれも一旦は富を得ることがあっても、長く保つことはできない人である。



・・・・・或る年老いて徳の高い僧に、若い女が、

 「どのように心を持って実を正せば、夫にはよき妻となり、舅姑(しゅうとしゅうとめ)にはよき嫁となり、来世に仏として生まれ変わることができるのでしょうか、教えて下さい。」

と尋ねたところ、僧はハハと笑って、

 「まことに心がけの良いお尋ねですから、秘密の中の秘密ですけれど包まず教えて差し上げましょう。」

と言ったかと思えば、さて女の顔を睨みつけて大声を出し、

 「その問いをよく忘れずに、日に三度ずつ自分で問わっしゃい!!!。」

と女が3日4日は耳が聞こえなくなるほど、雷のように叱ったという。



 


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